−−『マッハバロン』第1話冒頭。10年前、ロボット帝国に命を奪われた両親を回想、憂いをたたえた表情でキス岬に立つ嵐田陽。記念すべき単体ファーストシーン、静岡県伊東市・城ヶ崎海岸での撮影について、陽役の下塚誠氏は次のように語ってくださった。

「(“門脇吊橋横の岬”画像をご覧になりながら)…こんな危険な場所で撮影していたんですね(苦笑)。当時はまだ21歳で若かったから、平気で崖の上に立てましたけど、今同じことをしろと言われても、おそらくダメでしょうね。城ヶ崎海岸の撮影はクランクインではなかったです。最初に撮ったのは、(第1話)僕が団さん(村野博士)を訪ねてKSSの事務所に入るシーンでした」。

−−それまでもテレビ出演の経験は幾度かおありだったものの、『マッハバロン』では初主演の下塚氏。正直なところ、緊張や気負いがあったのではないだろうか?

「自分が主役だとは意識しないで現場に入ったので、気負いはなかったですね。昨年の座談会で、鈴木清さんが『バロンシリーズは僕にとって実子みたいなもの』とおっしゃっていましたが、『マッハバロン』に対する鈴木清さんの思い入れは特別でしたから、最初のワンカットからしつこくリハーサルを繰り返したことをよく覚えています。鈴木清さんは『下塚君、(嵐田陽を)野放図に無鉄砲に図々しく演ってくれ!』とおっしゃっていました。僕は(『太陽にほえろ!』テキサス刑事最終オーディションに残った流れで)日本テレビさんから『マッハバロン』に入れていただいたようなものですから、鈴木清さんが持っていた無鉄砲な“嵐田陽”のイメージと、おとなしい性格の僕のイメージは正反対じゃないのかな、と随分悩みました。鈴木俊継さん達(鈴木清氏以外の諸監督)は、『下塚君と嵐田陽のイメージは合っているよ』と言ってくださいましたが、鈴木清さんだけは『陽は(下塚氏のような)思慮深い青年ではない!』と、ご自身のイメージに強く拘っていらしたのではないでしょうか」。

−−クランクイン時、メイン監督・鈴木清氏の凄まじい拘りゆえに、自分が嵐田陽に相応しいのかどうか悩んだという下塚氏。しかし下塚誠氏も鈴木清監督も、その後はキャストとしてスタッフとして、最高の作品づくりに向け、手を取り合う。向こう見ずで高飛車な青年だった嵐田陽は、戦いを経るごとに次第に戦士としての高みに立ち、KSSという組織のなかで仲間を慈しみ護るキャラクターに成長していく。演じきった下塚氏としてはクランクアップ時、ある種の“達成感”があったのではないだろうか?

「確かに『やりきった』という達成感はあります。ただ僕はあの最終回の展開だけは、いまだに後悔があるんです。(小杉)愛が敵と相討ちになって亡くなるでしょう? 愛のことを想っていた陽が大切な愛を喪って仇を討つため、ララーシュタインとの最終血戦に挑む辺りをもっと丹念に描いて欲しかったですね。クランクインの時、『1年間4クール続く』と聞いていたのが3クールに変更になり、最終的には2クールになってしまった。最初、脚本の上原(正三)さんからは『人類を救うため、マッハバロンと嵐田陽が自滅を選ぶラストを考えている』と聞いていました。だから僕の中では漠然と、手塚治虫さんの 『鉄腕アトム』みたいな(自己犠牲の)ラストになるんだろうな…という予感がありましたし、正直なところ上原さんの初期プランの(陽がマッハバロンととも死ぬ)ラストにして欲しかったです」。

−−噂の域を出ないままウィキペディアなどに記載されている「マッハバロンとともに嵐田陽が落命するラスト」が、当初から上原正三氏の構想にあったとは…! 当時『マッハバロン』がマーチャンダイジング面で好調でありながら、日本テレビ“1975年春の番組改編”枠から押し出される不本意な形で、終了を余儀なくされたことは周知の事実だ。もしも『マッハバロン』が4クール編成であったなら、下塚氏演じる嵐田陽とマッハバロンが迎えたであろう“死”は、現在とは異なったベクトルで、1970年代特撮作品の“伝説”となっていたかも知れない。ときに下塚氏は『マッハバロン』撮影を振り返り、ロケ地をどう捉えているのだろうか?

「一番思い出深いロケ地は、やっぱり九州・宮崎ですね。“都井岬観光ホテル”のときは和室で、相部屋の若いスタッフたちとする話が楽しかったのですが、残念ながら“えびの高原ホテル”のときは洋室で一人部屋でした。九州ロケでは、バロン座談会でも話題になっていた“深江章喜さん乱闘事件”があまりに印象的で…。深江さんの件は、僕が芸能界に入って初めて見た“激しい喧嘩”でしたから。(「役者はスタッフより楽」との旨の発言をしてしまった)照明係の若い方に向かっていった深江さんを、役者と制作進行係の方々が必死で止めに入ったんです。太秦の撮影所(の大部屋俳優さん)などでもそうですが、若い役者が先輩を立てないと、往々にして大変なことになります。幸い僕は(太秦在住の)先輩たちに可愛がっていただきましたが、やはり礼儀礼節は大切ですね。(第4話ロケ地の)向ヶ丘遊園は、お化け屋敷みたいな所(健一が偽者とすり替えられた“魔女の館”)で撮ったことだけは覚えていますが、(向ヶ丘遊園内の)ほかの場所は記憶にないですね。多摩川では本当によく撮りました。それから何の話かは忘れてしまいましたが、(第24話の)“ララーシュタインの秘密基地”という設定で、所沢の下水処理場でロケをした時は臭くて辛かったですね。気持ち悪くなって、昼の弁当が喉を通らないくらいでしたから(苦笑)」。
ご自身のお店“洋風居酒屋 レモンタイム”での下塚氏。その美声で、トニー・べネットの「I left my heart in San Francisco」(邦題「思い出のサンフランシスコ」)をご披露くださった。
店内のカラオケで『マッハバロン』の主題歌を熱唱した猛者は、今までに3人いるという。
−−約半年間、様々なロケ地で苦楽を共にした懐かしい共演者たちとの思い出についてはどうだろうか? 下塚氏は次のように語ってくださった。

「(村野博士役の)団(時朗/当時.次郎)さんはジョークを言うような愉快な方でした。(岩井明役の)力石(考)さんは劇団四季育ちだったので、お芝居お芝居した感じでしたね。(白坂譲司役の)加藤(寿)さんは、力石さんと一緒のシーンが多かったですから、自然と力石さんの“熱い演技論”を聞かされる立場で大変だったと思います(苦笑)。加藤さんは『僕はアクション出身なので』とおっしゃって、いつも一歩引いた感じの謙虚で優しい方でした。(小杉愛役の)木下ユリちゃんは、当時まだ高校一年生の女の子で、そんな優しい加藤さんのことをとても信頼している様子でした。(花倉刑事役の)深江(章喜)さんは忙しい方なので、スタッフに『やり方(撮影)が遅い! 早く! もっと早く(撮ってくれ)!』って、よく文句を言ってらっしゃいました(笑)。亡くなった(タンツ陸軍参謀役の)麿のぼるとは、特に仲が良かったですね。彼は養成所時代の後輩で、『マッハバロン』が始まる2年くらい前からの知り合いでした。スタッフの方から『タンツ役、誰か(適任者は)いない?』と訊かれて、僕が麿(のぼる)を推薦したんです。それまで彼は“佐藤のぼる”という本名で活動していましたが、(『マッハバロン』出演を機会に)“麿のぼる”に改めました。実は彼の芸名を付けたのは僕なんです。彼が亡くなる間際、麿が自分の奥様に『僕の芸名は下塚誠が付けてくれたんだ』と何度も言っていた旨を、奥様から聞きました。麿(のぼる)は顔に疵のメイクをして悪役(タンツ)を演っていましたが、とても心の優しい人間でしたね」。

−−最後に、今年40周年を迎える『マッハバロン』のディープなファン諸氏へのメッセージをお願いしたい。

「(『マッハバロン』本放送から)早いもので、もう40年が経つんですね。『マッハバロン』の前、『太陽にほえろ!』オーディションの時、僕は“殿下(島刑事)”役の小野寺昭さんと同じ“柊企画”に所属していました。テスト出演の時、(石原)裕次郎さんから「お前、“殿下(小野寺氏)”の後輩か?」と訊かれたことをよく覚えています。『マッハバロン』で主役を演らせていただけることになったのは、間違いなく『太陽にほえろ!』がきっかけです。その『太陽にほえろ!』と、皆さんに“下塚誠”という名前を覚えていただけることになった『マッハバロン』は、僕にとって特に大切な作品です。来月(7月25日)にはまた新しくDVDが発売されるそうなので、昔からのファンの方も若い特撮ファンの方も、クリアな映像でぜひ『マッハバロン』を楽しんでいただきたいですね」。

2014年6月13日 東京都町田市内“洋風居酒屋 レモンタイム”にて
取材・構成◎「こちら特撮情報局」奥虹

下塚 誠(しもつか まこと)

俳優 『スーパーロボット マッハバロン』嵐田陽役
東京新社タレント養成所に第1期生として入り、東京小劇場聴講生を経て、芸能事務所「柊企画」に所属、1974年に『スーパーロボット マッハバロン』の主役に抜擢される。
以後、映画『大空のサムライ』(1976年)、『赤穂城断絶』(1978年)、『小説吉田学校』(1983年)や、テレビ『銀河テレビ小説・昭和の青春シリーズ4 早春の光』(1977年)で主演。他にはNHK連続テレビ小説『風見鶏』(1977年)、ポーラテレビ小説『マリーの桜』(1981年)等で活躍。近年は文筆も手掛け、『神の選択〜終末への序曲』(2010年 たま出版)を上梓した。
特撮作品への出演は『イナズマンF』(1974年)のジェット(♯17)、『コメットさん』(1978年)のタロウ(♯43 変身前のみならず変身後のウルトラマンタロウのスーツアクターも兼任)がある。
DVD スーパーロボット マッハバロン
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