1)「鐵超人」胎動時のアジア情勢

台湾(中華民国)国民は、1987年の戒厳令解除まで、言論の自由・報道の自由・表現の自由・上映の自由などの面で、与党・国民党から制約を受け続けてきた。1975年当時、それら国策に厳格に拘束されていた香港・台湾映画関係者(長弓電影公司)が、何故、日本現代企画(鈴木清氏・高野宏一氏ら)へ特撮作品の共同製作を持ちかけたのか?
それを明らかにするためには、まず当時の台湾の国内外情勢にスポットを当てなければならない。

もともとアジア圏内では、1970年代前半から既に仮面ライダーシリーズ・ウルトラマンシリーズの特撮シーンを流用した作品が製作・公開されてきたが、台湾を巡ってはそれを根底から覆す国際的事件が発生した。
まず1971年、国連における“中国”の代表権が“中華民国”政府から“中華人民共和国”政府へ移転されたため、憤慨した台湾(中華民国)は国際連合を脱退。加えて翌1972年、田中角栄内閣が(中華人民共和国へ接近し)“日中国交正常化”を目指したため、台湾は日本・アメリカと国交を断絶した。
一連の流れのなかで、台湾当局により日華合作を含む日本映画の上映禁止措置が講じられ、日本・アメリカの映画や書籍などに対するオミットと並行して、愛国宣伝映画が台頭していく。

このような国内外情勢下の1974年、(中国内戦直後、台湾で監督・脚本家として活躍した後、香港映画界へ移った)張徹(チャン・ツェー)氏は、姜大衛(デビッド・チャン)氏らスター俳優を伴い、大手映画会社のショウ・ブラザーズ社から独立、台湾で映画製作会社“長弓電影公司”を設立した(活動期間:1974〜1977年)。
同年、長弓電影公司は、日本オリジナル版『スーパーロボット マッハバロン』(以下『マッハバロン』)の既存特撮シーン・一部本編シーンを流用し、それを香港・台湾俳優出演による本編ドラマと組み合わせた体裁の、日華共作劇場版「マッハバロン(鐵超人)」(以下「鐵超人」)を製作・公開することを企画した。
当時、香港映画界では、日本の特撮シーンと香港俳優による本編シーンとをコラージュ(編集)し台湾へ輸出する、いわゆる“国片”という隠語(スラング)をもつ、抜け道的製作方法が定着していた。台湾映画界へ進出した長弓電影公司が、与党・国民党による厳格な“映画検閲”を知らぬわけはないし、当初から同社は“国片”を踏襲した映画製作を意図していたものと容易に推測できる。
折りしも台湾国内では、30年以上にわたり独裁的政治を振るってきた蒋介石総統が1975年4月に死去。同時に長男・蒋経国(1972年より首相)が1973年から進めてきた“十大建設”(重工業重視の6ヶ年計画)の大成功により、1975年以降、国内経済成長率が驚異的な伸びを見せ始めていた。
おそらくこのタイミングで長弓電影公司は、蒋介石総統死去による“映画検閲の鈍化”を見越し、また台湾国民の娯楽ジャンルへの大量消費を背景とした“特撮作品上映による十二分な収益”を画策、日本向けには“日華文化交流”を旗印に、日本現代企画側(鈴木清氏・高野宏一氏ら)へ特撮作品の共同製作を持ちかけたものと推測される。

2)「鐵超人」誕生前夜

日本現代企画社内で日華共作候補が精査された結果、同社単一製作による『マッハバロン』が選ばれた。鈴木清氏・高野宏一氏は直ちに台湾へ渡華、日本オリジナル版『マッハバロン』から数話分のエッセンスを抽出し、日華共作劇場版「鐵超人」の脚本を執筆した。
(今回ドイツ語版“Roboter der Sterne”を視聴し考察したが、映像どおりであるなら)鈴木氏・高野氏が日華共作劇場版「鐵超人」執筆にあたり、オリジナル版『マッハバロン』から選定したエピソードは、第1・2・11・12・9話の順で構成されていたと推察される。当該エピソード5話分全てがオリジナル版『マッハバロン』において、鈴木清氏・上原正三氏コンビ回であることは特筆される。これは当時、日本現代企画社員であった鈴木清氏が、日華共作劇場版「鉄超人」の著作権や利益配分の一部が、同社に帰属するよう配慮した結果と思われる。

長弓電影公司側の提案により、キャストは“日華混成チーム”と決定。鈴木清氏らにより、日本側キャストは力石考・加藤寿・内海敏彦・所雅樹・木村章平のオリジナル版俳優5氏が選抜された。一方、香港・台湾側(長弓電影公司)からは、葉天行(ステファン・イップ)・李琳琳(マギー・リー)・陸劍明(ジェイミー・ルク)・秦沛(チョン・プイ)の4氏が選抜された。
前述のとおり“長弓電影公司”設立者・張徹(チャン・ツェー)氏は、香港映画スター・姜大衛(デビッド・チャン)氏らを伴って台湾へ進出してきたわけだが、日華共作劇場版「鐵超人」製作にあたり、張徹(チャン・ツェー)氏は、最も信頼し、タッグを組んで多くの名作を生み出した編集者・郭廷鴻(カク・チンハン)を監督に起用。更に、若き盟友・姜大衛(デビッド・チャン)氏のコネクションに依拠したキャスティングを行った。たとえば発明刑事役の秦沛(チョン・プイ)氏は姜大衛(デビッド・チャン)氏の実兄にあたり、また女性隊員役の李琳琳(マギー・リー)女史は姜大衛(デビッド・チャン)氏の配偶者にあたる(1974年結婚)といった具合である。

3)日華混成チームによるコラージュの構築

一方、鈴木清氏らは、日華共作劇場版「鐵超人」の監督として、日本オリジナル版『マッハバロン』第17・18話を演出した実績を評価、前川洋之氏を指名した。そして日本オリジナル版第1・2・11・12・9話の本編ドラマシーンに準拠したシーンを撮影(新撮)するため、直ちに関東地方(特に多摩地区)を中心に丹念なロケハンを行った。
たとえば、日本オリジナル版第11話、村野博士にバロニウム鉱石を精製させるため、誘拐した小杉姉弟と村野博士との人質交換にスーカン・ゲラーの2幹部が立ち会うシーン。日本オリジナル版では栃木県日光の湿地帯がロケ地であったが、日華共作劇場版「鐵超人」では同一シーンが関東地区の採石場で撮影されている。
また、日本オリジナル版第12話、バロニウム製の棺に眠る村野博士をマッハコレダーで弔うシーン。日本オリジナル版では多摩川上流の河川敷がロケ地であったが、日華共作劇場版「鐵超人」では東京都稲城市矢野口の“ありがた山(墓石整理前)”がロケ地となっている。
「ロケ地各所が日本現代企画(当時、狛江市和泉1366〜1367番地/現、和泉本町2丁目)から近距離に限定された」理由は、おそらく撮影効率を極限までアップさせることにより、撮影諸経費、香港・台湾キャスト陣の滞在費用圧縮など、あまねく製作費削減を意図する、鈴木清氏ら日本現代企画サイドにとっては必然的な措置であったと推測される。

同様のことは撮影方法にも言える。日華共作劇場版「鐵超人」映像を検証すると明らかだが、「新撮によって相当の撮影コスト・撮影日数を要すると思しきシーンは、徹底して日本オリジナル版の既存フィルムを流用することで対応」している。
つまり「基本的に『鐵超人』本編パートでは“日本オリジナル版の俳優同士”が絡むシーンは殆ど新撮されていない」。換言すれば「日華キャスト共演シーン、もしくは香港・台湾キャストのブレストアップシーンと、俯瞰・煽り・引きで撮影した既存フィルムとを編集する」ことで、製作費の削減を実現している。
たとえば、日本オリジナル版第2話、子ども達とバルーン遊びに興じる主人公・嵐田陽がロボット帝国戦闘員たちに急襲されるシーン。および同第2話、発明刑事がアドバルーンバイクで陽を救出しようと奮闘するシーン。日華共作劇場版「鐵超人」では、同一シーンが主人公役・葉天行(ステファン・イップ)氏および発明刑事役・秦沛(チョン・プイ)氏の単体ブレストアップシーンと、煽り撮影の日本オリジナル既存フィルムが編集されている。
また、日本オリジナル版第12話、バロニウム鉱山で強制労働中の村野博士が脱出を試みるシーン。および同第12話、牢に繋がれている村野博士がロボット帝国戦闘員から食事を受け取り、そのコップ水にバロニウム鉱石を溶かし飲み仮死状態に陥るシーン。日華共作劇場版「鐵超人」では、同一シーンが博士役・陸劍明(ジェイミー・ルク)氏のブレストアップシーンと、引き撮影の日本オリジナル既存フィルムとで編集されているといった具合である。

無論、前川洋之監督らスタッフ諸氏は、製作費削減だけに専心したわけでも、重要シーンの撮影を怠ったわけでもない。“新撮フィルム”と“オリジナル版の既存フィルム”が違和感なく繋がる(整合する)よう、細心の注意を払い撮影しているのだ。
たとえば、日本オリジナル版第2話、ハイルV2号に破壊された貨物船に乗船していた唯一の生存者を、KSS隊員たちと花倉刑事が病室にて看病するシーン。日華共作劇場版「鐵超人」では、日華キャスト共演シーンと日本オリジナル版の既存フィルムが繋がるよう、日本オリジナル版と同一施設でロケが行われている。
また、日本オリジナル版第11話、村野博士との人質交換で引き渡された偽・小杉姉弟(アンドロイド)が、突如ナイフでKSS隊員たちを急襲するシーン。日本オリジナル版では栃木県日光の森林地帯がロケ地であったが、日華共作劇場版「鐵超人」では日本オリジナル版に酷似した森林でロケが敢行されている。

このような“新撮フィルム”と“オリジナル版の既存フィルム”を違和感なく編集(コラージュ)し公開する事例、即ちバロン座談会における鈴木清氏のご発言「人気のある作品を海外で“焼き直し”してつくるやり方」は、1960年代には既に存在したという。
香港映画研究家・原真一氏は言う。「古くは1967年、二谷英明とジミー・ウォングが入れ替わる『亞洲秘密警察』(日本公開名:『アジア秘密警察』)に代表される“コラージュ作品”がありました。合作や海外版製作に起因する製作の歴史があり、そのお家芸とも言える技術の蓄積は、やがて“主役不在の作品を完成させる”という形で、ブルース・リー主演『死亡遊戯』『死亡の塔』、ジャッキー・チェン主演『醒拳』『必殺鉄指拳』として結実(?)するに至ります。その『死亡の塔』にも、『レッドバロン』『マッハバロン』キャストの加藤寿氏が出演されていることは非常に興味深いです」。

一方、当時狛江市内の日本現代企画スタジオ内では、第1・2・9・11・12話に準拠した、日華キャスト共演シーンや香港・台湾キャストの単体シーンが撮影された。たとえば「国際救助隊基地作戦本部内の一連のシーン」「“鐵超人”(マッハバロン)および戦闘機(キスバード)のコックピットにおける操縦シーン」「女性隊員(李琳琳/マギー・リー)が搭乗していた戦闘機3号が敵ロボットに撃墜され、彼女がパラシュートで脱出するシーン」などがそれに該当する。
バロン座談会における鈴木清氏の証言によれば、こうした“新撮フィルム”と“オリジナル版の既存フィルム”の編集プロセスには、前川洋之氏の作業に、『マッハバロン』当該エピソードの撮影者である鈴木清氏自らが、立ち会う形で行われたという。過去自らが撮影した『マッハバロン』既存フィルムを第三者(前川氏)に嘱託する監督者としての立場、且つ総合プロデューサーとしての立場を兼任する鈴木清氏からすれば、当然の流れ、帰結と言えよう。

4)日華双方のスタッフ・キャスト

上記の点を踏まえ、バロン座談会における鈴木清氏の証言、日華共作劇場版「鐵超人」視聴による検証で判明した、日華双方のスタッフ・キャストを羅列すると以下のとおりになる(敬称略・順不同)。

■日本側スタッフ
監督:前川洋之、脚本:鈴木清・高野宏一(オリジナル脚本:上原正三)、編集:前川洋之・鈴木清

■香港・台湾側スタッフ
監督・脚本:郭廷鴻(カク・チンハン)

■日本側キャスト
男性隊員A:力石考、男性隊員B:加藤寿、女性隊員の実弟:内海敏彦、帝国海軍参謀:所雅樹、帝国空軍参謀:木村章平
上記5氏はオリジナル版『マッハバロン』の流用シーンに登場している他、日本オリジナル版と同一シチュエーションの諸シーンを、香港・台湾側キャストとの共演により新撮している。

■香港・台湾側キャスト
“鐵超人”搭乗者(主人公):葉天行(ステファン・イップ)、女性隊員:李琳琳(マギー・リー)、博士:陸劍明(ジェイミー・ルク)、発明刑事:秦沛(チョン・プイ)
上記主要4役は香港・台湾側キャストが演じたため、日本オリジナル版キャストである下塚誠・木下ユリ・団次郎・深江章喜の4氏は、新撮に不参加であった。

■流用シーンのみのキャスト
“鐵超人”搭乗者(主人公)の両親:小倉雄三・加藤真知子、幼少時代の“鐵超人”搭乗者(主人公):小山渚、帝国総統:伊海田弘、帝国陸軍参謀:麿のぼる、帝国空軍参謀:桜木栄一
上記6氏は、香港・台湾側キャストとの共演シーンがないうえ、オリジナル版『マッハバロン』の流用シーンのみに登場しているため、おそらく新撮に不参加だったと推察される。
海外版はオリジナル版の第1・2・9・11・12話を編集したものであるため、第8話をもって降板された桜木氏のご出演シーンは、明らかにオリジナル版第1〜2話(タンツとゲラーがララーシュタインに謁見するシーン)の流用。
※タンツ陸軍参謀役・麿のぼる氏に関し、2014年3月20日に加藤寿氏より以下の情報をいただいた。
「麿のぼる氏は新撮にも参加していたような気がします。撮影時、彼と何度か会話を交わした記憶があるのです。なにぶん古い記憶なので“確かに”とは断言しにくいのですが、彼との会話の内容も一部憶えています」。
考察者の見落としか、麿のぼる氏の新撮部分が何らかの事情でカットされたのか、この点は再考察を要する(2014年3月20日加筆)。

原真一氏は言う。「実は、台湾・香港側の主演陣4名の他に、梁少華(Leung Siu-Wa)と何誌強(Godfrey Ho Jeung-Keung)の2名が出演しているのです。ただ、有名な俳優でもなく資料も比較的少ないせいで、現在どの役柄かが特定出来ていません。この2人はスタッフも兼ねていることから、ロボット帝国戦闘員の中に入って、葉天行(ステファン・イップ)とのアクションの絡みを行っている可能性も高いです。香港人は日本人とのアクションはタイミングが掴みにくく、同じ香港人同士で撮る場合もあるからです。貨物船に乗船していたベッドの生存者役の可能性もありますが、角度的に目視だけでは確証を得ません。また、例えばスーカンとゲラーの後ろ姿やロングショットの線もあり得るかも知れません」。
また、原氏によれば、日華共作劇場版「鐵超人」の香港・台湾側監督・脚本を担当した郭廷鴻(カク・チンハン)氏は、監督作こそ数少ないものの、編集者として数多くの長弓電影公司の名作を手がけた人物であるという。さらに原氏は語る。「特筆すべきは、あのブルース・リーが友情出演したユニコーン・チャン主演作『麒麟掌』(倉田保昭や、若きジャッキー・チェンも出演)や、ロー・リエが主演の『ドラゴン危機一発2』原題:唐山二兄/唐山弟子(呂小龍がブルース・リー演じた“チェン”のその後を演じる)など、功夫映画マニア垂涎のラインナップも彼の手によります」。
香港・台湾側(長弓電影公司)からの提案により、キャストが“日華混成チーム”と決定された根拠のひとつには、経済上の理由(製作費軽減)に加え、前述のように台湾・香港側と日本側の“アクション構築方法の根本的相違”があると推察される。つまり、懸念される(日華間の)殺陣の差異による現場事故を回避するため、アクションコーディネーターを兼任した台湾・香港キャストを撮影現場に常駐させる、一種の保険(リスクヘッジ)である。

5)「鐵超人」迷走と台湾国外拡散の謎

こうして1975年、見事完成を見た日華共作劇場版「マッハバロン(鐵超人)」。だが当初、長弓電影公司が見越していたであろう、蒋介石総統死去による“映画検閲の鈍化”は起こらず、むしろ総統死去直後の国内情勢不安定期だからこそ、台湾当局の“映画検閲”は執拗な厳格さで行われたと推測される。
実際に映画「鐵超人」上映後、長弓電影公司側は台湾当局から“再審査”を命じられ、7月21日〜24日の僅か4日間で上映は打ち切られた。「わが国(台湾)が日本と国交断絶中であるにもかかわらず、その日本の関係者が参画(製作・出演)した映画を上映することなど罷りならん!」。そんな御小言とともに、“長弓電影公司”関係者は何らかの行政処分を受けたのかも知れない。
しかしこの再審査事件を境に、何故か日本人スタッフ参加による香港・台湾映画の台湾国内における上映は、唐突に規制緩和されていく。たとえば、映画「鐵超人」再審査処分の僅か1ヶ月後、1975年8月には西本正氏撮影による映画「中国超人(インフラマン)」が公開(今作は香港作品であり、また西本氏は“賀蘭山”の名で、表面上は中国人を装っていたため問題なかったと思われる)、さらには同年11月に“東星電影公司”製作の映画「閃電騎士V3」(日本オリジナル劇場版「仮面ライダーV3対デストロン怪人」の再編集作品)が公開されている。
権力闘争に勝利し与党主席となり、磐石なる地位を築いた蒋経国氏が安堵し、温厚な“文化政策への転換”を図ったのか? 長弓電影公司は、その文化政策転換期の狭間の“スケープゴート”とされたのか? それとも別なる要因があったのか? その辺りは今後新たな考察が待たれる。

香港映画研究家・原真一氏は言う。「日華共作劇場版『マッハバロン(鐵超人)』は、台湾では上映中止の憂き目に遭ったとの旨、鈴木清監督の証言がありましたが、香港でも上映の事実が確認できておりません。香港の当時の資料にもその一切の記述がないのです。恐らく、後年のビデオソフト時代にようやく香港でも発売されるようになったのではないでしょうか? TV放映時の人気ゆえ“鐵超人”の名だけが香港で独り歩きし、1975年に公開されたかのように伝聞されたとも考えられます。台湾映画は、製作こそ台湾で行われていても実際には香港を主要マーケットとしていることも多く、『マッハバロン』中国版製作も、実際には香港でのTV(『百変龍』)人気による影響の可能性が高いと思われます。また、実は、“長弓電影公司”は台湾に本部拠点を置きながらも、香港の会社であるかのように、堂々香港国内の映画ラインナップに入っていた、という非常に曖昧な事実があり、それが『鐵超人』香港公開の誤報となって、今に至っている一因となったのではないか?との考察もあります」。

また、日華共作劇場版「鐵超人」の日本側キャストの一人、加藤寿氏は言う。「台湾キャストとの撮影は、日本の『マッハバロン』クランクアップ(1975年1月15日)の後に間違いないです。1975年であることは確かだけれども、正確な時期までは記憶にないです。ただ、日本の『マッハバロン』と(「鐵超人」は)並行撮影してはいないですね」。
以上のことから、日華共作劇場版「マッハバロン(鐵超人)」は、1975年1月中旬以降のある時期に日本国内で撮影・編集され、後に香港もしくは台湾国内で適正言語にアフレコされ、同年7月21日〜24日の4日間のみ台湾で上映後、突如中止(再審査)させられたと推察される。実質、台湾と香港を主要マーケットとする長弓電影公司だが、二大マーケットである台湾と香港の国内情勢の相違により明暗が分かれ、二国間の興行収益に著しい格差が生じたであろう事は想像に難しくない。

長弓電影公司は、台湾当局から再審査を命じられた(おそらくその際に「鐵超人」原版も没収されたと推測される)ものの、映画「鐵超人」が台湾国内複数館で上映されたとすれば、フィルムは相当数プリントされていたはずである。このうち当局の没収を免れたフィルムと音声が、いかなる人物の手から、いかなるルートを経て国外へ流出したかは不明だ。あくまで仮定であるが「没収を免れたフィルムと音声が“製作コスト回収”を意図した香港・台湾映画関係者を経由し、恣意的に改竄され流通した」とすれば、非常に遣り切れないものがある。
バロン座談会の席上、鈴木清氏から「日華共作劇場版『マッハバロン(鐵超人)』は日本テレビ音楽さんも了承の基で製作している。その際に原音で製作した」との証言があった。(ドイツ語版“Roboter der Sterne”を視聴するかぎり)同作品のSE(効果音)は日本オリジナル版『マッハバロン』に準拠したものが使用されているが、特撮シーンの要所では、広東語と思しき主題歌ばかりか、明らかに日本のマジンガーシリーズ劇伴(渡辺宙明氏作曲)などが使用されている。
たとえば、日本オリジナル版第1話、帝国軍ロボット(ハイルV1号)を迎え撃つためキスバードが出撃するシーンから流用された日華共作劇場版「鐵超人」の当該シーンでは、「空飛ぶマジンガーZ」(アニメ『マジンガーZ』内、Zがジェットスクランダーで出撃するシーンで多用された名曲)のインストゥルメンタル・バージョンが使用されている。
この点からも、日華共作劇場版「鐵超人」は、台湾当局の再審査(上映中止)命令の後、香港・台湾映画関係者側から日本現代企画側へと知らされるべき、頓挫後の関連情報が共有されぬまま、“何者か”による非合法的手段により一部音声が改竄され、特殊なルートを経て国外へ流出、世界各国で摩訶不思議なバージョン(ドイツ語版タイトル“Roboter der Sterne”、スペイン語版タイトル“Mazinger: el robot de las estrellas”等)として流通・拡散したものと推測される。

香港映画研究家・原真一氏の以下の発言には、“映画「鐵超人」台湾国外拡散の謎”を解く重要なヒントが隠されているかも知れない。曰く「香港と台湾の映画界というのは表裏一体の関係で、国家体制を逆手に取った相互関係がありました。元々、香港製映画が台湾で興行的成功を収めても、国交のない台湾から、その興行収入金を香港に持ち出せないショウ・ブラザーズ社は、台湾国内に“長弓電影公司”を設立し、そこで得た収入で映画を台湾国内で製作。その映画を今度は香港に持ち込んで公開し、香港国内でも収入をあげる…といった戦略を立てるのです。アジア劇場版『マッハバロン』は、この流れに非常に密接に交わった稀有な日本映画かも知れません。本当に本件は深いです。台湾側スタッフは『どうせ台湾で中止になっても香港で上映できるから良いや。そうすりゃ日本側にお金払わなくても済むし』位のことを考えていたかも知れませんね。実際、そういうことをやりますから」。
いずれにせよ、日華共作劇場版「マッハバロン(鐵超人)」が、海外展開された既存の日本特撮諸作品とは異なり、極めて数奇な道程を辿っている事実に変わりない。全容解明のため、今後、日華共作劇場版「マッハバロン(鐵超人)」の更なる研究が待たれる。
文責◎「こちら特撮情報局」奥虹/協力◎原 真一
次へこのページの先頭へINDEX