“向ヶ丘遊園”跡
“向ヶ丘遊園”は、小田急電鉄系の遊園地として1927年(昭和2年)に開園。2002年(平成14年)閉園までの75年間、多くの娯楽を提供した。
役目を終えて10年余りが経過した“花の大階段”は、周囲の緑に同化しつつある。
大階段右手に見える金属製と思しきラインは、1987年に設置された“フラワーエスカー”跡。遊具が全て撤去されてしまった今、大階段と街路灯のみが、かつての隆盛を偲ばせてくれる。
“向ヶ丘遊園”跡レポート
レポーター◎「こちら特撮情報局」奥虹×バロンロケ地調査隊

『マッハバロン』第4話、ロボット帝国海軍参謀・スーカン立案の作戦は、ユンカーズF2の幻惑光線によりマッハバロンを翻弄したうえ破壊、同時に小杉健一の偽者“サイボーグ003”を使い、時限爆弾でKSS海底基地を爆破しようという狡猾なものだった。しかし、作戦指揮に執着するゲラー空軍参謀は、スーカンの戦闘回路に仕掛をし、戦闘不能にさせてしまう。
一方、“向ヶ丘遊園”へやって来た陽・愛・健一だが、陽・愛の間で「女性が国際救助隊にいることの是非」について口論が始まり、大人びた健一が穏便に仲を取りなす。
3人が歩いているのは遊園中心部の“大沈床花壇”で、中央の星型花壇が映り込んでいる。撮影時にはサルビアやマリーゴールドなどが植えられていたが、本放送時の1974年10月下旬には、秋に相応しく“菊と造形展”が開催されていた。
独り駆け出した健一とぶつかったのは、肌も露(あらわ)な“黒ドレスの魔女”(ロボット帝国メンバー)だった。
駆け出した健一の進行方向にショッキングピンクにペイントされたセスナ機が展示されている。さらにその背景には“亀の子山”という場所にあった観覧車(搬器は9台)が見える。『マッハバロン』の放映から2年後の1976年9月、同じ場所に(当時日本一の大きさを誇る)搬器36台の大観覧車が完成した。
魔女は健一を“ふしぎな! ふしぎな魔女の館”(催物館)へ巧みに誘導、館内で健一と003をすり替えることに成功する。
かの“口裂け女”を彷彿させるような生々しいメイクと黒ドレスの“魔女”は、“魔女の館”の壁面に立体デコレーションとして配置されているそれを、踏襲したものだろう。
1975年当時は、正門内側(大階段下)の丸い噴水池が来園者を出迎え、非日常の世界へと誘ってくれた。今はただ静謐な時間が流れるばかりだ(上画像)。

1965年開設の“マンモスプール”は、冬期はスケートリンクへと転用され、通年賑わった。現在は“ばら苑”の来園者も目を遣ることのない路傍の遺構になっている(下画像)。
「侵略ロボット・ユンカーズF2出現」の報にKSS基地へ帰還する陽。残された愛も鉢合わせした花倉刑事に弟・健一の行方を託すと、陽に続く。この時、愛は“花の大階段”方向を背に、催物館(魔女の館)の入口方向を見ている。
花倉は目の前の健一が偽者だとは知らず、ご丁寧にもKSS基地まで送迎してしまう。
バイクに乗った偽健一と花倉の背後に見えるサボテン群が、向ヶ丘遊園内のものである確証はないが、僅かに映り込んでいるベンチが、園内の他のシーンで確認できるものと酷似している点は興味深い(その場合“アメリカ庭園”辺りが有力候補か)。一方で、第1・2話登場の“キス岬”(ロケ地は城ヶ崎海岸)から程近い“伊豆シャボテン公園”で撮影された可能性も否定できない。
出撃したマッハバロンだが、首を切り離す変幻自在なユンカーズF2の連続攻撃に圧され、旗色が悪い。岩井隊員の作戦による、キスバード3機同時攻撃“スクランブルアタック”が功を奏し、バロンは一旦ピンチを脱する。しかしその際、ユンカーズF2の幻惑光線を照射されたキスバード3号の愛は、正常な視覚を喪失し戦闘不能に陥る。
ユンカーズF2は再び優位にバロンを攻めていたが、突然攻撃を中止、撤退する。それはゲラーがスーカンの戦闘回路に仕掛をしていたことが、ララーシュタイン総統に発覚、緊急の報復措置によるものだった。
「“花の”向ヶ丘遊園」の象徴とも言える“ばら苑”は、壮大な規模で1958年に開園。遊園閉園後は、川崎市が生田緑地の一部として管理を継承し、春と秋の開花時季には一般公開を行っている。
“ばら苑”の正門や柱に使用されている薄い石版を積み重ねた様な意匠は、遊園の他のエリアでも散見できたことから、園の統一意匠であったことが伺える。“向ヶ丘遊園”を今に伝える施設は、この“ばら苑”のみとなった。
一方、脳波検査に異常の見られなかった愛は、KSS本部で村野博士から「視覚に拡がった雲や海の風景」について訊かれていた。3号機墜落の責任を追求し、愛を室内勤務にするよう村野に進言する陽だが、村野は愛に優しく休息を勧める。
愛が不在になった作戦本部で村野は、陽に“(15歳当時の)愛のトラウマ”について静かに語り始める。数年前、友人と海へ出かけた愛は、自身が泳ぎに不得手だったため、高波に呑まれた友人を救えず死なせてしまった。愛は国際救助隊の活動をすることで、死んだ友人に償っているだろうということを…。
陽は「女の子が救助隊に入って何が悪いの?」と訴えていた愛の懸命な姿を反すうしていた。基地内の廊下で寂しそうに佇む愛を見つけた陽は、「“女だてらに”とは二度と言わないよ」と愛に謝罪し、仲直りする。このシーンの撮影は、“よみうりランド 海水水族館”内にかつてあった大型水槽前。
その頃、電波室に侵入した偽健一(003)は、要所のモニターを破壊したのち、KSS基地の機密を撮影していた。スーカンは、キスバード3号メンテナンス中の村野を刺殺するよう003に命令するが、村野が岩井に呼ばれ移動したため、暗殺のタイミングを逸する。
再びユンカーズF2が出現した。はやる陽に村野は「あのロボットには何かある。気をつけろ」と諭し、岩井・白坂両隊員とともに出撃を命じる。愛は自分だけが出撃から外されたことに落胆する。
花倉は、基地内で突然姿が見えなくなった健一を探していた。
バイクの内臓カメラにキスマリンのあるBブロック映像が映り込んでいることから、基地内にスパイがいることを確信するが、さすがに作戦本部にいる偽健一本人がスパイだとは気づかない。このシーンが撮影された場所も、前出のサボテン群の辺り。
“向ヶ丘遊園”の中心部へ向かう道も、今は一部車両を除いて通行できない(上画像)。

“ばら苑”より望む“大運動場”跡。1970年代には企業や地域のイベントが、1980年代には『蘭・世界大博覧会』などの大規模なイベントが開催された(下画像)。
愛はユンカーズF2のシャボン玉を見てから周囲の景色が変化したことを、村野に報告する。村野は「シャボン玉がフィルムのネガの役割を果たし、それに特殊な光線が当たると幻惑光線になること」を即座に看破した。
しかし時すでに遅く、バロンは敵ロボットの放つ幻惑光線を浴び、存在しない敵を追い、地面へと急降下していた。基地内に妨害電波が流され、村野の指示が陽に届かないため、愛は決死の覚悟をもってキスバード3号で出撃する。
愛はキスバード3号でバロンに体当たりすると、操縦席の陽に敢えて“炎”を見せる。前回出撃時の経験則から、幻惑光線の呪縛を解く鍵が“炎”だと気づいたからだ。バロンは間一髪、地面激突の危機を脱し、パラシュートで脱出した愛も1号機に救出された。
愛の機転で体勢を整えたバロンは、アトミックファイヤー、マッハコレダーの連続攻撃でユンカーズF2胴体を破壊。さらに逃げる頭部本体に、カノンショッターで止めを刺した。あくまで退歩しないスーカンは、003に「作戦本部にKSSメンバーを集め自爆しろ」と命じる。
その頃、担架で医務室へ運ばれる途中の愛に、陽は「くたばるんじゃないぞ」と優しく声をかけ、愛も「くたばるもんか」と笑顔で返していた。このシーンも“よみうりランド 海水水族館”内の大型水槽前で撮影されている。
作戦本部、スパイの正体が露呈した003は、体内内蔵マシンガンで岩井・白坂両隊員を負傷させると、10秒後に自爆するよう起動スイッチを押した。その刹那、003は突如銃弾に倒れる。KSS海底基地爆発の絶体絶命のピンチを救ったのは重傷の愛だった。愛は、本物の健一の「人指し指で鼻柱を擦る癖」を一度も見せなかった003を偽者だと看破したのだった。
本物の健一は花倉やKSSメンバーに“魔女の館”から無事救出され、最愛の姉との再会を喜んだ。ここでも映るショッキングピンクにペイントされたセスナ機は、第12回フラワーショー「花と緑と大空と」に際して展示されたものと思われる。
“マンモスプール”の入場口へ通じる階段は、朽ち果てた状態のまま時を刻んでいる。
向ヶ丘遊園メモリアル(リンク承認済)
圧倒的な情報量と計測不能な“遊園愛”で、向ヶ丘遊園の魅力を余すところなく紹介してくださる唯一無二のサイト。「懐かしの絵葉書」のページには1966年頃の“大沈床花壇”、「遊園の昔と今」のページには在りし日の“観覧車(搬器9台)”の貴重な画像も…。

向ヶ丘遊園 1975 MAP
「1975年度版 明細地図 川崎市多摩区(東)」を基にして、撮影ポイントを考察する目的で独自に作成。
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